「着床前診断のメリットとデメリット」
最近では不妊治療の中で「着床前診断」が多く用いられるようになりました。
・遺伝病を調べるPGT-M(着床前胚単一遺伝子欠損検査)
・胚の染色体の数を調べるPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)
・染色体構造異常を調べるPGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)
2020年1月から、日本産科婦人科学会により認定された全国の施設が、この研究に参加することになりました。この研究は2022年8月末で登録終了、12月で研究終了となり、現在は不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A,PGT-SR)について、日本産科婦人科学会の細則に基づき、体外受精の治療の選択肢の一つとしてで実施しております。
40代で体外受精で妊娠した場合、その流産率は60%以上に及ぶといわれています。
体外受精などの高度生殖医療をうけられている過程で流産を繰り返しているなどの理由から移植前に受精卵の染色体異常を判別してほしいというニーズに応えるのが着床前診断です。
流産に至るその原因は、流産物の染色体検査の結果によると、ほとんどは染色体の数の異常(トリソミー、三倍体、45,XOなど)です。
これは卵子の老化により、染色体が正常に減数分裂できなくなることが影響していると考えられます。
このような受精卵の染色体異常に対して着床前診断は正常な受精卵だけを移植する治療法になります。
胚の選択結果を知るまでに、およそ3週間を要します。カテゴリー分類(A, B, C, D)を用いて判定されます。
A :すべての常染色体が正倍数性である胚
B: すべての常染色体が正倍数性であるとも異数性であるとも言えない 胚であり一般的にモザイクといわれるため遺伝カウンセリングを要する
C :常染色体の異数性もしくは構造異常を有する胚
D: 解析結果の判定が不能な胚
このように厳選して受精卵を移植するということは今よりも移植の回数が減り母体への影響や心の問題には好ましいものの、実際に移植をする回数が減り、出生率は変わらないという結果になります。
PGT-Aは、胚移植あたりの妊娠率が上昇し、流産率が低下する可能性がある一方で、いくつかの問題点があります。胚生検は、本来はそのまま子宮に移植されるべき胚の一部の細胞を採取することになるため、生検による胚の損傷を伴います。この胚のダメージにより、本来は着床できる胚が着床出来なくなったり、流産や児への影響が出る可能性があり得ます。また、胚生検やその後の解析が不成功に終わることもあります。
PGT-Aの誤判定率は5~15%あるといわれており、生検の結果が正常でも児に異常が出る場合があります。また、正常で生まれるはずの胚が、不適や判定不能とされ、廃棄されてしまう可能性もあります。PGT-Aの精度が100%でない(80~90%程度)原因の一つとして、全ての胚が必ずしも同じ染色体でなく、正常な細胞と異常な細胞が混在する「モザイク胚」の問題があります。生検するTE(胎盤)部分と、将来赤ちゃんになるICMの部分が異なる染色体の細胞で構成されているモザイク胚では、正常と判定されても流産したり、逆に異常と判定されても赤ちゃんになる部分は正常である可能性があります。
また出生前診断でも同じように議論されてきた問題ですが、『生まれてきてもよい生命』と『生まれることが望ましくない生命』を定め、人の生命の質を選別することは誰にも許されないという指摘もあり「命の選別を可能にするシステムは一度動き始めると歯止めがきかない」として「臨床研究の撤回」と「障害を持つ当事者の声を聞くこと」を求め、過去に先天性神経難病の患者らでつくる団体「神経筋疾患ネットワーク」は着床前診断に反対する声明文を日本産婦人科学会に提出しました。
着床前診断は不妊治療として期待が上がる一方、染色体数の異常を理由に受精卵を排除する点が問題視されているのもまた事実であります。